トレーニング負荷#262026-10-14

ポイント練習の間隔を決めているのは、腱ではない

ポイント練習の間隔を決めているのは、腱ではない

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火曜にインターバル、金曜にペース走。「腱の回復に72時間かかるから」と教わって、ずっとこの間隔でやっている。ただ、木曜に体が軽い日もあれば、土曜になっても脚が重い日もある。72時間という数字は、いったい何を数えた数字なのだろう。

結論を先に

四つあります。

  1. アキレス腱のスティフネスが落ちて戻るまでは、およそ1日です。 ハーフマラソンを走っても、若いランナーではそもそも落ちません。中年のランナーでは22%落ちますが、それも20〜28時間で元に戻ります
  2. 「72時間」の出どころは、腱のコラーゲン合成が続いている期間です。 つまりダメージが残っている期間ではなく、作り直している期間の長さです
  3. CKは筋の指標であって、腱については何も語りません
  4. そして、練習の間隔を直接振り分けて比べた研究は、差を見つけていません

そのうえで、実務に効く事実もあります。上りはアキレス腱に、下りは膝に負担が行く。ケイデンスを上げるとどの部位も下がる。 順に見ていきます。

まず、実際どのくらいで戻るのか

ここから始めます。答えのある問いだからです。

2016年、Ackermansらは中年ランナー27名(50〜67歳)と若年ランナー22名(21〜29歳)に21kmを各自のペースで走らせ、ダイナモメトリーと超音波でアキレス腱の力-伸長関係を測りました。測定は4回 ― 走行の20〜28時間前、走行直前、走行直後、そして走行20〜28時間後です[1]。

結果です。

若年(21〜29歳)中年(50〜67歳)
走行直後の筋力−11%−17%
走行直後の腱スティフネス変化なし−22%
20〜28時間後―筋力・腱スティフネスとも ベースラインまで回復

若いランナーでは、ハーフマラソンを走っても腱スティフネスは変わりませんでした。

中年では22%落ちましたが、それも20〜28時間後にはベースラインに戻っています[1]。

著者はこう書いています。

中年ランナーで観察された腱の変化は走行後20〜28時間以内に消失しており、生体内で腱の粘弾性的な回復機構が働いている可能性を示唆する[1]

「粘弾性的な回復」 ― つまりこれは損傷ではなく、伸びたものが戻る現象(クリープ)に近い、ということです。

より高い強度でも同じ方向の結果が出ています。Parkkolaらは、最大随意等尺性収縮の90%という高強度で底屈運動をさせ、その後72時間にわたって6回、腱の「非一様変位」(健常な腱に見られ、損傷者や高齢者で減る現象。腱の健康の指標とされる)を測りました[2]。

  • 運動前 2.99 ± 1.52 mm → 運動直後 3.19 ± 1.42 mm
  • ★変化しなかった

長時間走でも同じです。11名に60分のトレッドミル走と140分の間欠シャトルランをやらせた研究では、腱の張力は4〜5%低下したものの、スティフネス・ヒステリシス・弾性エネルギーはいずれも変化しませんでした[3]。著者の結論は「どちらのプロトコルも腱特性に疲労関連の変化をもたらさなかった」。

ここまでをまとめると、こうなります。

若く健康なランナーの腱は、かなり頑健です。落ちるとしても中年で22%、そして1日で戻る。

ハーフマラソン走行前後のアキレス腱スティフネスと筋力の変化を、若年群と中年群で比較した図。走行直後、若年は腱スティフネスが変化せず中年は22%低下。筋力は若年11%・中年17%低下。いずれも走行20から28時間後にベースラインまで回復した。あわせて、90%最大随意収縮の等尺性運動後72時間で腱の非一様変位が変化しなかったこと、60分走と140分間欠走の後もスティフネス・ヒステリシス・弾性エネルギーが変わらなかったことを注記(Ackermans 2016、Parkkola 2025、Houghton 2013による)

正直に限界も書きます。Ackermans 2016は測定点が走行直後と20〜28時間後の2点しかないので、「何時間で戻ったか」は特定できません。20時間かもしれないし、もっと早いかもしれない。また中年群のほうが遅く走っている(3.1 vs 3.6 m/s)ため、年齢と速度が交絡しています。そして21kmの走り込みであって、インターバルではありません。

それでも「72時間」ではないことは、はっきりしています。

では「72時間」は何の数字なのか

出どころははっきりしています。腱のコラーゲン合成が続いている期間です。

2005年、Millerらは健常な若い男性に片脚キック運動を最大仕事率の67%で1時間やらせ、その後72時間にわたって膝蓋腱と大腿四頭筋の生検を繰り返しました。安定同位体で標識したアミノ酸を持続注入し、タンパクがどれだけの速さで作られているかを直接測っています[4]。

組織安静時ピーク(24時間)その後
腱コラーゲン0.045 ± 0.003 %/h0.077 %/h72時間で 0.058 ± 0.008 %/h(まだ上昇)
筋コラーゲン0.018 ± 0.001 %/h約 0.054 %/h48時間で 0.036 ± 0.008 %/h
筋原線維タンパク0.040 ± 0.002 %/h約 0.13 %/h72時間でまだ上昇

「腱の回復には72時間」という数字は、ここから来ています。

ですが、この表が示しているのは「傷が治りきるまで72時間かかる」ではありません。 示しているのは、72時間経ってもまだ作り直す作業が続いているということです。

そして決定的な事実があります。この研究では、組織学的に筋の損傷は見られませんでした[4]。つまりこの反応は、壊れたから修復しているのではなく、強い刺激に対して作り替えている姿です。

合成が続いていることは、壊れていることを意味しません。

さらに著者自身が、こう書いています。

我々は、タンパクの純増加も分解も測定することを意図していなかった[4]

分解を測っていない。 これが次の節で効いてきます。

腱コラーゲンと筋原線維タンパクの分画合成率の時間経過を並べた曲線図。腱コラーゲンは安静時0.045%/hから24時間で0.077%/hのピークに達し、72時間でも0.058%/hと安静時を上回ったまま。筋原線維タンパクは安静時0.040%/hから24時間で約0.13%/h。合成が続くことは損傷が残ることを意味せず、この研究では組織学的な筋損傷が見られなかったこと、分解と純増加は測定されていないことを注記した図(Miller 2005による)

「異化の窓」は、思われているほど確かではない

よく語られる説明があります。「運動直後は分解が先に立ち上がるので、収支は一度マイナスになる。だから間隔を空けないと腱が削れていく」

出どころは2010年のNature Reviews Rheumatologyの総説で、抄録にこうあります[5]。

コラーゲン形成の増加は運動後およそ24時間でピークに達し、約3日間上昇したままである。コラーゲンタンパクの分解も運動後に上昇するが、合成より早くピークに達するようである

「ようである(seems to)」という留保付きの表現です。

そして、ヒトのアキレス腱で実際に測ったデータは、この方向と一致していません。

1999年、Langbergらは訓練されたランナー7名に36kmを12 km/hで3時間走らせ、アキレス腱前方の腱周囲組織にマイクロダイアリシスのカテーテルを入れて、合成と分解の両方を測りました[6]。

  • 合成マーカー(PICP): 安静 55 ± 10 µg/L → 運動直後は低下 → 72時間後 165 ± 40 µg/L(基礎の3倍、P<0.05)
  • ★分解マーカー(ICTP): 運動直後に有意に「低下」した(P<0.05)

分解マーカーは、上がるどころか下がっていました。 著者の結論は「運動はアキレス腱周囲の領域に 正のタンパク収支 を誘導する」[6]。

分解酵素そのものを測った研究もあります[7]。

  • Pro-MMP-9は運動後に著明に増加し、3日後まで高いまま
  • Pro-MMP-2は運動直後にむしろ低下し、1日後も低いまま
  • 分解を止める側(TIMP-1、TIMP-2)は1日後・3日後に上昇

上がる酵素も、下がる酵素も、止める側も、同時に動いています。 分解が一斉に立ち上がって収支が沈む、というきれいな絵にはなっていません。

公平のために限界も書きます。Langberg 1999はn=7で、測定点が運動前・2時間後・72時間後の3点しかありません。2時間から72時間の間に何が起きたかは分かりません。 そこに窓がある可能性は否定できません。

それでも言えます。「異化の窓があるから間隔を空けろ」は、ヒトのアキレス腱の一次データで裏づけられた主張ではありません。

腱の芯は、そもそも入れ替わらない

ここで前提を変える研究を挟みます。

1955〜1963年の核実験で、大気中の放射性炭素(14C)は劇的に増えました。生き物はその時々の大気の14Cを取り込むので、組織に残る14C濃度から「その組織がいつ作られたか」が逆算できます。

Heinemeierらは法医学検体のアキレス腱の芯28検体と骨格筋4検体を加速器質量分析にかけました[8]。

  • アキレス腱の組織は、採取の数十年前の大気中14Cレベルを保持していた
  • 腱の14C濃度は、およそ「生後最初の17年間」の大気レベルを反映していた
  • ★つまり腱の芯は身長が伸びる時期に作られ、それ以降は本質的に更新されない
  • 対照的に、筋の14Cレベルは継続的な入れ替わりを示した

同じ人の体の中で、筋は入れ替わり続け、腱の芯は入れ替わっていない。

これは前の節と矛盾しません。マイクロダイアリシスや生検が捉えていた合成は、腱の周囲と表層で起きていることです。芯ではない。

そして、ここから導かれる含意は、間隔の話とは別方向を向いています。腱に関して意味があるのは「今週の間隔」より「年単位で何を積んだか」のほうです。