傷害予防#212026-09-23

「ゆっくり走ればケガをしない」は本当か

「ゆっくり走ればケガをしない」は本当か

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ケガが続いたので、ジョグの日を思い切り遅くした。「そのほうが筋肉が硬くならず、故障しにくい」と教わったからだ。半年経つが、正直、効いているのかどうか分からない。

結論を先に

「ゆっくり走ればケガが減る」を支持する前向き研究は、現時点で存在しません。

否定されているわけではありません。検証されていないのです。そして根拠としてよく語られる「スロージョグは筋トーン(筋の硬さ)を下げるから故障しにくい」という説明については、支えるはずの各段が、本文を読むとことごとく崩れます。

ただし誤解のないように。イージーを徹底的に楽にする練習の組み立て自体は、正しいと考えていいだけの根拠があります。 支持されていないのは、それをケガ予防として説明する部分です。

今回は、この説を段ごとに最後まで確かめます。

検証する主張

「筋トーン」を軸にこの考え方を広めたのは、ノルウェーの元5000m代表マリウス・バッケンです。本人が公開している文章とインタビューから主張を拾うと、こうなります。

  • イージーランは文字通りイージーで、乳酸1.0 mmol/L未満、心拍は最大の70%未満
  • 2本のハードセッションの間の休息は数時間しかないが、その間に筋トーンが下がり、筋が次のセッションに備えられる
  • 短い休息の重要性は、内分泌系・心血管系・代謝系にあるとは考えていない。それらは二次的で、機械的・筋的な問題として捉えている
  • セッション後に筋を触診すると、2〜3時間後には質感が違う
  • スプリントは筋トーンを上げすぎる

ケガ予防の主張として読むと、これは3段の連鎖です。

  1. ゆっくり走ると筋トーンが下がる
  2. 筋トーンが下がるとケガのリスクが下がる
  3. ゆえにスロージョグを入れるとケガが減る

3が成り立つには、1と2の両方が必要です。片方でも欠ければ、結論は宙に浮きます。

「ゆっくり走ればケガをしない」を支える3段の連鎖と、精査後の各段の判定。第1段は機序が秒単位の現象でジョグでの直接証拠が無いこと、第2段はランナーの前向き研究が無いこと、第3段は未検証であることを示す整理図(本記事が精査した24本の査読論文による)

先に断っておく ― 練習の組み立て自体は支持されている

公平を期しておきます。バッケンの実践を疑う理由はありません。

2025年、ノルウェーのオリンピック持久系種目の世界レベル指導者への聞き取りをまとめた研究が発表されました[1]。共著者にステファン・セイラーとトーマス・ハウゲンが入っています。そこでの共通項は、総練習時間の80〜90%を低強度に充て、週2〜3日の「キーワークアウト日」に強度セッションを集約すること。バッケンの署名的な方法そのものも本文に出てきます。

ただし、そこで挙げられている理由はケガ予防ではありません。

重い練習日に午前・午後の2回、中〜高強度のセッションを行い、回復時間という「コスト」を管理可能な範囲に保ちながら、強度練習の総量を増やすためである。その間の日は低強度を優先し、量は比較的多いが、自覚的負荷は低い。

質の高い練習をより多くこなすための設計であって、故障を減らすための設計としては書かれていません。ここは分けて考える必要があります。