ケガの手がかりは「横から」より「後ろから」見える ― 前額面・水平面のランニングバイオメカニクスと、現場での見方

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フォームのチェックというと、スマホを横に置いて撮ることが多いのではないでしょうか。接地の位置、膝の曲がり、上体の傾き。でも、膝の外側が痛む、すねが痛むといった相談を受けたとき、横からの動画だけで原因の手がかりが見つかることは、意外と少ないものです。
結論を先に
- 体の動きは、横から見える動き(矢状面)、前や後ろから見える動き(前額面)、ねじれの動き(水平面)の3つに分けて考えます。
- 走りとケガの関係を調べた66本の研究をまとめたレビューでは、関節の動きからみたケガの危険因子の大半が前額面と水平面にありました(Willwacher ら 2022)。
- 膝の前の痛み(膝蓋大腿疼痛)や腸脛靭帯炎では、股関節が内側に入る動き(内転)が大きいことが、女性ランナーの追跡研究で示されています。
- ただし、どの面の指標でも「ケガを予測できる」とまでは言えません。 追跡研究30本・3,404人のメタ分析は、動きの測定値をケガの危険因子とする根拠は「概して支持されない」と結論しています(Peterson ら 2022)。
- 骨のケガでは、ピッチや着地の衝撃など横から見える側の根拠のほうが強いものもあります。
- 現場で前額面はスマホ動画である程度見られます。一方、水平面(ねじれ)はどの手軽な方法でも誤差が大きいので、ねじれそのものではなく「ねじれの結果として表れるサイン」を見るのが現実的です。
体の動きを3つの面で考える
バイオメカニクスでは、体の動きを3つの面に分けて考えます。
- 矢状面: 体を左右に分ける面。横から見える動きです。膝の曲げ伸ばし、接地の位置、上体の前傾など。
- 前額面: 体を前後に分ける面。前や後ろから見える動きです。股関節が内側に入る(内転)、骨盤が横に落ちる、かかとが内側に倒れる(外がえし)など。
- 水平面: 体を上下に分ける面。上から見たときの「ねじれ」です。股関節や膝の内側へのねじれ(内旋)、つま先の向きなど。
走りの速さを決める動きの多くは矢状面にあります。だからフォームの話も、横から見た動きが中心になりがちです。しかし、ケガとの関係を調べた研究を並べると、違う景色が見えてきます。
ケガの危険因子は、前額面と水平面に多かった
ドイツのグループが、長距離ランナーに多い8つのケガ(シンスプリント、アキレス腱障害、足底腱膜炎、膝蓋腱障害、腸脛靭帯炎、脛骨の疲労骨折、ハムストリングの腱障害、膝蓋大腿疼痛)について、ケガをした人としていない人の走りを比べた66本の研究をまとめました(Willwacher ら 2022)。
- 危険因子はケガの種類ごとに違っていました。
- そして、関節の動きや力から見つかった危険因子の大半が、前額面と水平面にありました。
- 力の指標では、足裏の圧力、着地時の衝撃の立ち上がりの速さ(垂直負荷率)、足と地面の間のねじる力(フリーモーメント)が挙がりました。
ケガ別に見ると、次のような研究があります。
- 膝蓋大腿疼痛: 健康な女性ランナー400人を2年間追跡した研究では、膝蓋大腿疼痛になった15人は、走っているときの股関節の内転がもともと大きかった一方、股関節の内旋やかかとの外がえしには差がありませんでした(Noehren ら 2013, 抄録で確認)。
- 腸脛靭帯炎: 同じ研究グループの追跡研究で、腸脛靭帯炎になった女性ランナーは、股関節の内転と膝の内旋が大きいことが示されています(Noehren ら 2007, 抄録で確認)。
- 脛骨の疲労骨折: 疲労骨折の経験がある女性30人とない30人を比べた研究では、股関節の内転、フリーモーメント、かかとの外がえしの3つで、83%を正しく見分けられました(Pohl ら 2008, 抄録で確認)。
- 骨盤の落ち込み: ケガをしているランナー72人と健康な36人を比べた研究では、片脚で立ったときに反対側の骨盤が1°下がるごとに、「ケガをしている側」に分類されるオッズが80%上がりました(Bramah ら 2018, 抄録で確認)。
膝の外側にある腸脛靭帯は、股関節が内側に入り、膝が内側にねじれると引き伸ばされる位置にあります。脛骨のらせん状の疲労骨折では、骨を軸のまわりにねじる力が関わると考えられています。どちらも横から撮った動画には映りません。横からだけ見ていると、こうしたサインを見落とす、というのがこの話の核心です。
ただし「予測できる」とまでは言えない
ここで大事な注意があります。
上の研究には、2つの弱点があります。1つは、すでにケガをした人や、ケガの経験がある人を測った研究が多いことです。この場合、ケガのせいで走りが変わった可能性を否定できません。もう1つは、股関節の内転を追跡研究で示した根拠が、ほぼ同じ研究グループの、女性ランナーの集団から出ていることです。
そして、ケガをする前に測って、その後を追った研究(前向き研究)だけを集めると、結論はかなり慎重になります。
- 追跡研究30本・3,404人をまとめたメタ分析では、25の分析のうち有意だったのは2つだけでした(膝を伸ばす筋力が低い、股関節の内転速度が低い)。結論は「生体力学や筋骨格の測定値を、一般ランナーのケガの危険因子として支持する根拠は概してない」「測定値だけで予防の推奨はできない」です(Peterson ら 2022)。
- 骨のケガでは、横から見える側の根拠が強いものもあります。大学の長距離選手54人を3シーズン追跡した研究では、ピッチが1歩/分高いごとに、骨のストレス障害のリスクが5%低いという結果でした(Kliethermes ら 2021)。初心者320人のランダム化比較試験では、着地の衝撃を減らす2週間のフォーム指導で、1年間のケガが38%から16%に下がりました(Chan ら 2018, 抄録で確認)。
さらに、3つの面は独立していません。膝蓋大腿疼痛があり、骨盤や股関節の前額面の動きが大きいランナー12人に、ピッチを10%上げる指導を1回だけ行った研究では、3か月後に骨盤の落ち込みが約3°、股関節の内転が約4°小さくなり、痛みなく走れる距離が平均6.8km延びました(Bramah ら 2019。対照群のない小規模な研究です)。横から見える動きを変えると、後ろから見える動きも変わるのです。
まとめると、こう言うのが正確です。
「前額面・水平面の動きは、膝や股関節まわりのケガの手がかりとして重要。横から見るだけでは見落とす。ただし、それだけでケガを予測できるわけではなく、ピッチや衝撃など横から見える側と合わせて見る」
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